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2. 私の好きな音楽 (1) 
● アーマ・トーマス Irma Thomas ●
 理由はわからないけれど、いなたい音楽が大好きである。家族のことや自分の生い立ちを振り返って考えても、周囲に全くその要素はなく突然変異らしい。影響を受けたような原因には思い当たらないが、現に好きになった音楽を並べてみると、あまりに同じような曲が並んでいるのに気づいて愕然とする。
 ここでは、私の好きな人たちについて少し書いてみる。今まで知らなかった人には、是非機会があったら聴いてみていただきたいと思っている。 まずは私の歌のルーツとなった3人から始めよう。

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 New Orleansのsoul queenがキャッチフレーズ。彼女の何とも伸びやかでおおらかで生命力の強い感じが好きだ。O型の私にはぴったり、ひたすら前向きな感じ。声が似ていることもあってか、私のレパートリーの中では彼女の歌が最も多く、かなり影響を受けていて、最近では歌う時の首の動かし方まで似てきてしまった(と指摘された)。来日した時には、東京公演をすべて追っかけて楽屋に押しかけ、当時持っていたアルバム十数枚すべて(一番好きなアルバム1枚にサインしてください、とお願いしたのだが、考えてみたらそんなの本人としては選べるわけないよね? )とマイクにサインしてもらった。
 Rounderに移ってからの成熟して安定した歌も好きだが、初期のBandy, Minit/Imperialの頃の曲は何より私のルーツとなっている。よくリクエストされるのがRulerOf My Heart やTime Is On My Sideだが、好きな曲は他にもたくさんある。例えば、Gone。たしかにセッションで歌うには不向きな小品だが、この曲では声のトーンがまさに言葉(歌詞の内容)を表現していて、その哀愁とたくましさの絶妙なバランスにあこがれる。Two Winters Longもそう。ここらへんのシンプルかつストレートさが彼女の大きな特徴ではないかと思う。他には、歌いたいけどギタリストに却下されることの多い(?)ちょっとチープなギターサウンドのBaby Don't Look DownやHittin' On Nothingも好き。ちなみにHittin' On NothingはMaison de Soul盤に別バージョンが入っていて、B級っぽいのだがそれがまた逆に妖しくて耳に残る。妖しいと言えば、I'm Gonna Cry Till My Tears Run Dry (MINIT録音の方)などもRuler of My Heart などと同じ雰囲気をもつ佳曲で、アラン・トゥーサン作のシンプルな曲を歌う時のアーマが生み出す霧がかかったような朦朧とした空間は独特なものだと思う。
 これら初期の曲は、敢えて薄暗くて古臭い小さなクラブみたいな場所で聴きたいが、中期以降の曲はぐんと華やかになってどれも屋外ステージで聴きたい。ニューオリンズ・ジャズ&ヘリテイジ・フェスのイメージが強いせいもあるかもしれないが、ライブアルバムを聴くと、まるで自分もその場所にいてどんどん惹き込まれていくような思いがする。歌とか演奏とかが粗くて多少ドサクサでも関係ないのである。アーマの声には人を取り込む力がある。広い空間にどこまでも声が伸びていく感じが実によく似合う人だと思う。中期以降で好きな曲としては、Safe With Me, Zero Will Power(RCS録音の方), New Rules, Old Records, The Way I Feel, Simly The Bestなど。Simply The Best はTina Turnerのを聴くと、なるほど元々はロックの曲なんだな、と納得するけど、アーマの歌はそこにもっとおおらかに豊かな広がりを付け加えている。
 お会いしたアーマさんは、ホントにきさくで優しい人でした。また日本に来てくれないかな。思いがつのる私としては、テレビでブッシュの側近のライス国務長官を見ると、『あ。笑わないアーマだ。』と、ちょっとドキッとしてしまうのである。 (2005.1.22)

 *好きなアルバム* 『After The Rain』, 『Irma Thomas Sings...(Bandy)』, 『The Way I Feel』, 『live : Simply The Best』
 ※その他のアルバムについては、『愛聴盤』コーナーをご覧下さい。

追記(2006.2.7):
ここでは触れなかった彼女の1970年代のいわゆる“ソウル・アルバム『IN BETWEEN TEARS』、『SAFE WITH ME』については、「音楽日記」 11.Irma Thomas のKENTコンピをご覧下さい。

追記(2007.2.11):
 ※『After The Rain』が第49回グラミー Contemporary Blues Album部門の最優秀賞を受賞しました!

このアルバムについての詳しくは、 「音楽日記」 15.AFTER THE RAIN / Irma Thomas (2006) をご覧下さい。


Irma Thomas Sings...(Bandy)  

 

 

 

 

 

その他
 Irma Thomas

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3. 私の好きな音楽 (2) 
● バーバラ・リン Barbara Lynn ●
 バーバラ・リンも非常に影響を受けたシンガーの1人だ。彼女のスモーキーな声は、まさに“sit back”という言葉がぴったりな感じで、やさしくて包容力があり、人の気持ちを癒す力を持っている。そして彼女の特徴は左利きで弾くギターと黒いサムピック。私は彼女をまねたい、という理由だけで、ギタリストでもないのに彼女と同じfenderのjaguarを知り合いのツテを辿ってM氏から破格の値段で譲っていただいた(正直に言うとかなり弾きにくいギターだけど。ライブで使ってみたりしたこともあるけど、ちょっと懲りた。先日、久々にM氏にお会いして、「ギター、弾いてます? 」と問われ、返答に詰まった。私にとってjaguarはもはや、弾く弾かないの問題ではない。バーバラ・リンのファンだから持ってたい、という種類の宝物なのだ)。彼女の曲も私のレパートリにはかなり多く、一時期は随分集中して歌ったためにその影響から抜けられなくてあまりに苦しくなり、しばらく歌うのを控えていたことすらあるくらい。来日した時にはこれまた全ステージ追っかけ、サインをもらい、空港に見送りにまで行って、周囲の人たちに『まるで彼女のペットの子犬のようだ』と言われた。私も大分若くて可愛らしかった。
 大ヒット作You'll Lose A Good Thing はもちろんだが、これとよく似たGive Me A Break, I'll Suffer, Laura's Weddingなども好きである。このタイプの3連バラードは彼女の基本パターンとでも言えるもので、私自身、ギターを持つとつい3連で1-6-2-5の循環を弾いてしまうパブロフの犬状態。単純なコード進行といえば、3コードのみの循環で成り立っているThis Is The Thanks I Getも佳曲だ。この曲については静か〜なバラードと思っていたのに、来日公演の時のギター弾きまくりの演奏は、興奮してくるにつれ発せられるカッ飛んだ声とともに強く印象に残った。
 彼女には自作の曲も多く、かなり特徴的な節回しなので、CDを聴いていてもすぐにわかる。大きくわけて“明るい曲”と“悲しい曲”の2つのパターンを持っているようだ。私が好きなところでは、It Ain't No Good To Be Good(明るい曲)やYou're Gonna See A Lot More(悲しい曲)というところかな。有名曲のカバーも多く、bluesのカバー以外にも、古くはMoney, Don't Be CruelなどのR&B曲から、Forever ,I'd Rather Go Blind, Let's Stay Togetherなんていうものまで歌っている。これらの曲を聴くと、彼女は歌をフェイクしないで素朴に歌う人なのである。それなのにDon't Be CluelやForeverのような明るい曲までもがなぜか哀愁を帯びたような物悲しい調子になってしまう。独特の感性をもった人である。
 ところで大ファンの私が言うのも何だが、バーバラ・リンはちょっと不器用らしい。自分自身の内に持っているスケール(音階)以外の音(和音)に弱いように見受けられる。Unitl I'm Freeでは転調に失敗してるし、Poor Old Trashman なんて始まってすぐにエライことになっていて、最初にこの曲を聴いた時には私は脳みそがよじれた。もっとも、そんなことで私が彼女を愛する気持ちには変化はなく、Unitl I'm Freeなんて、ついつい彼女と同じく怪しい音程のままで歌い続けるよう刷り込まれてしまっている。まさに、ペットといわれる所以。
 アトランティック後はかなり色々なレーベルを転々として、アルバムの内容も行ったり来たりしていたように思うが、彼女の最新アルバム(2003)は、昔の曲のリメイクも多く、全体がかなり初期の感じに回帰していて、私としては「お帰りなさい ! 」という感じでとても嬉しい。年齢のいったバック・メンバーとリラックスして音を作った感じがよく出ていて、再びsit back ! の世界がそこにはある。あ〜。癒される〜。 (2005.1.22)

 *好きなアルバム* 『You'll Lose A Good Thing』, 『Crazy Cajun Rrecordings』, 『Blues & Soul Situation』
 ※その他のアルバムについては、『愛聴盤』コーナーをご覧下さい。


You'll Lose A Good Thing  

 

 

 

 

その他
 Barbara Lynn

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4. 私の好きな音楽 (3) 
● ベティ・スワン Bettye Swann ●
 3人のうちで誰が一番好きか、といわれても困るが、他の2人と比べてBettye Swannはちょっと別格かも。自分の非常にプライベートな精神的な生活の中の女神さまみたいな存在である。セッションなどで手軽にできる曲が少ないせいもあって(というより、私の声がどんどん太くなってきてしまっているので、今ではもう似合わない !? )、普段彼女の曲を歌うことは少ないけれど、ムチャクチャ好きなのである。
 何と言っても彼女の歌は、可憐で、上品で、ちょっと内気で、慎み深く、いじらしい。The Boy Next Doorみたいな“ファンキィ”な仕立ての曲を歌ってもギラギラしてる感じはまったく感じさせない。妙にイジイジしている。普段の私を見ている人には信じられないだろうけれど、彼女の歌は私の奥にある内向的な部分を触発するようだ。
 ベティ・スワンとの代表作といえばMake Me Yoursだが、Money時代のアルバムではDon't Look Back, Don't Wait Too Long, Don't Take My Mind, I Think I'm Falling In Loveが好きである。特にDon't Look BackはMoney時代のコンピCD (2001)に、ギター1本だけで歌ってるテイクがボーナス・トラックとして入っていて息を呑むほどすばらしかった。オリジナルのミラクルズよりいいと思うんだけど。彼女の歌の1つの特徴である語尾のブレスも生々しく、しかも終了後、おそらくギターの人か周囲のスタッフに対してであろう、『(テンポ)遅すぎたかしら ? 』という“生声”まで入っていて、これはまさにお宝。 (何を隠そう、実はこれを聴いて私は2002年にLEODUOを立ち上げたんです。今や大分タイプの違うデュオになっちゃいましたけど。)。 Don't Take My Mindは、イントロのあまりに時代がかっているホーンとドラムからしてシビレれてしまうが、いざ歌おうとなると、楽器演奏者には間違いなく「カッコ悪い」と嫌がられ却下されるだろう。21世紀になった今、こういうのが“ヘンな曲”なのは承知なのだが、何で私はこんなイナタイものが好きなんだろう。我ながら不思議だ。
 Capitol時代はがぜん曲がポップになる。これを聴くと、ベティ・スワンという人は、白人のポップスを実に絶妙なバランスで落ち着かせる名手である。Then You Can Tell Me Goodbyeなどは、おそらくオリジナルだったら聞き流してしまいそうだけれど(オリジナル聴いたこともないのに失礼ですが)、ベティの歌は心に染み込んでくる。この曲を聴いて、普通の人はどのジャンルの曲だと思うだろうか。いわゆるソウルのように重たくない。けれどポップスのように軽くもない。これは後のTime To Say Goodbye なんかにもいえると思う。とここまで書いていて思い出したけど、Then You Can Tell Me Goodbyeはバーバラ・リンもとりあげていた。アーマとバーバラとベティの3人は割と同じような曲を取り上げているので、聴き比べるのも楽しい。アーマとベティのYours Until  Tomorrowとか。同じ曲でもそれぞれの気持ちのありようが全く違っていて、なるほど、という感じである。まさに、音楽には“その人”が反映されている。
 Atlantic時代の曲は何枚かのシングル盤とオムニバス盤でしか聴いたことがなく全容を把握していないけれど、Heading In the Right DirectionとBe Strong Enough To Hold Onが大好きである。特に、Heading In 〜は、“自分を好きになってくれる人は誰もいないとずっと思い込んできた内気な少女の目の前に、突然 『他の人とは全然違うあなた』が現れて、『これは新しい恋の始まりかしら ? 私は正しい方向を向いているかしら ? 』と揺れる気持ち”を歌った曲なのだが、この歌詞とベティの声とがまさにピッタリで、さすがの私も胸キュンである。
 ベティ・スワンは、ソウルの名曲も随分カバーしていて、いずれも実に“けなげ”である。A Change Is Gonna Come, Cover Me, These Arms On Mine, Chained And Bound, Stand By Your Man, I'd Rather Go Blind, Tell It Like It Is, Ain't That Peculiar など。
 彼女のMoney時代とCapitol時代のアルバムは最近相次いでCDで再発されたので、より手軽に聴けるようになりとても嬉しい(KENTとHonest Johnには毎度のことながら感謝 ! )。これで、貴重なLPが磨耗するのを心配する必要がなくなった。ベティのLPは3枚とも昔随分苦労して探して、高いお金を払って買った覚えがある。あとはこの勢いでAtlanctic時代の全曲コンピも出ないかな。Fameのシングルも聴いてみたいし、Sam Deesと録音したシングル(※下記参照)もあるんでしょ。誰かなんとかして下さ〜い !
 私のもう1つの願いは“動くベティ・スワン”を見たいということ。ライブではどんな感じでどんなサウンドで歌っていたのでしょうか。ひたすら抑えた感情表現の彼女、地味といえば地味で、人前でどのようなパフォーマンスをするのか、アルバムを聴いても、全く想像がつかないのです。
 ベティ・スワンの映像、チラッと映ってるだけでもいいから、どなたか、情報をお持ちではありませんか (2005.1.22)

 *好きなアルバム* 『Make Me Yours』, 『The Soul View Now!』, 『Don't You Ever Get Tired 』
 ※その他のアルバムについては、『愛聴盤』コーナーをご覧下さい。

追記(2006.2.14):
 ※Sam Deesとのデュエットシングルは後日入手。 詳しくは、「音楽日記」 12.Sam Dees & Bettye Swann をご覧下さい。

 

 

 

 

 

その他
 Bettye Swann

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5. 私の好きな音楽 (4) 
● チャック・ブラウン Chuck Brown ●
 “無人島に持っていくならこの1枚”、に私は迷わずChuck Brownのライブ・アルバムを選ぶ。
前回、あれだけ私のアイドルであるアーマ・トーマス、バーバラ・リン、ベティ・スワンについて熱い気持ち(?)を表明した後で、こんなことを言うのも何だが、“無人島に1人で取り残される”という状況を考えると、彼女たちのアルバムでは、あまりに切なく悲しくてやりきれなくなりそうである。その点、チャック・ブラウンなら大丈夫。これをかければ、沖合いに救助の船が現れるまでひたすら踊り続けながら、待ち続けることができる。そのくらい、チャック・ブラウンの音楽は隅から隅まで徹底的に心地よくダンサブルな音楽なのである。
 基本的にライブ・アルバムなら大体内容は同じなので、どれを選んでも大差ないと思うけれど、一応全盛期であるChuck Brown & Soul Searchers 時代のがいいかな。“ツァラトゥストラはかく語りき(映画『2001年宇宙の旅』でもおなじみのシュトラウスの交響詩)”で始まって(これは必須ね ! )、It Don't Mean A Thing、Here We Go Again、Woody Woodpecker、Harlem Nocturne、Family Affair、Stormy Mondayあたりの基本曲が含まれていればOKである。あ。Bustin' Looseも聴きたいかも。(そういえば、LPの片面がまるまるノンストップで収録されているSoul Searchersのアルバム、好きな曲を聴きたいと思っても、どこへ針を落として良いやら全然わからず苦労していたのだが、CD化されるにあたり、初めて曲ごとの“頭出し”ができるようになって感動したのだった。LPからCDへの移行期、CDというものを全然信用していなかった私が、初めてCDの有用性を認めた瞬間だった。)
 チャック・ブラウンはGo-Go musicの創始者(当時誰が創始者か、でトラブル・ファンクと揉めたこともあるらしいけど )で、最近ではRap〜Hip Hop musicのゴッド・ファーザーと呼ばれているらしい。ちなみに、ここでいうGo-Go musicとは、1980年頃にワシントンのクラブで爆発的に広まった、ゆるぅ〜くグルーヴするファンク音楽の1つのスタイルのことで、昔の音楽映像によく出てくる、ミニスカートのお姉ちゃんたちが腕や首を振りながら踊る“ゴーゴー”とは別物。それと区別するために、こっちの方は特にWashington D.C. Go-Goと言われることもあります。
 私は他のファンク・バンドも割と色々好きだが、チャック・ブラウンはダントツである。チャック・ブラウン(& ソウル・サーチャーズ)の音楽はグルーヴが柔らかくしなやかで、ほとんどのライブが2〜3時間くらいほぼノン・ストップ(2回くらいは曲の合間があるけど、それ以外はすべてメドレー形式)で行われるのが特徴。まさに“止まらない”ことがGo-Goという名前の由縁だそうな。これこそ、何時間踊っても疲れない。聴いたとたんに身体が突き動かされて踊りたくなる音楽はたくさんあるが、“何時間踊っても疲れない”音楽(演奏)というのは、そうはない。例えばトラブル・ファンクやp-funkにも、カッコ良くて気持ち良くて踊りたくなる曲はあるが、やはり長く続くとちょっと休みたくなる。チャック・ブラウンのような“無限な感じ”を与えてくれることはないのである。
 この音楽の“無限”感、というのは、私にとって音楽の嗜好上かなり重要なキーワードで、そもそも同じグルーヴが無限にグルグルグルグル回って続いていく、という音楽が好きなのである。ウィルソン・ピケットの名曲、Funky Broadwayのベースラインなどもそのクチで、これが一度頭の中で回り出したらおいそれとは止まらない。夜など眠れなくなって大変なことになる。注意を逸らすために本を読んだりすると、その音は一時止むが、もう大丈夫かと思って本を置いて灯りを消すと、とたんに頭の中で音が回り出す。好きな音楽とはいえこれが案外苦しい。音楽に取り殺されるのではないか、という気すらしてしまう。これはR&Bやソウルだけに限らない。CCRのジョン・フォガティのギターにもにも同じような感じではまり込むことが多いし、ビートルズのAnnaという曲のギター・リフにもはまったことがある。出会いがしらにハマるので事故に会ったようなものである。はまり込んだら解決策としてはとにかく他のことに集中して音楽を忘れるしかない。ちょっと困っている。
 その他、アフリカのファンクとかレゲエ、カリプソ、古くはティト・プェンテなどのラテン音楽でそんな“無限”を感じることが多い。最近で言えば、1〜2年前くらいに“ジャケ買い(=ジャケットだけみて内容に見当をつけて買う、バクチ的購入法 : ソウルでは定番な方法)” したCalypso Kingという、得体のしれないかなりB級っぽいバンド(多分最近の? クレジットがなくて何者なのかわからない )のCDが、かなりそんなテイストで、思わず「大当たり ! 」と叫んだっけ。

 大分話がそれてしまったが、チャック・ブラウンの音楽が単なる器楽的なファンクに終わらないのは、彼がやはり古いタイプのエンターテイナーの影響を受けているからだろう。チャック自身のアイドルはフランク・シナトラだと何かのインタビュー記事で読んだことがある。そう言われて聴けば、なるほどである。“古き良きアメリカ”のような大らかさがある。声の豊かさ(発声法)もその嗜好をよく表している。(とはえ、女性ボーカルとのデュオでジャズ曲をストレートに歌ってるアルバムは、暖かい感じは出てるがさすがに私にはちょっと…。)
 彼のギターも大好きである。チャックチャックウックチャックウックチャックというイントロの空ピックからして既にものすごくグルーヴしていて、ドラムやパーカッションが加わって全体がチャックポックチャックポックと鳴り出し、さらにホーン・セクションがテーマを吹き始めると音楽全体に色がついて無限のGo-Go世界の視界がぱっとひらけていく。
 2002年に出たチャック・ブラウンのお誕生日祝い(67歳?)のトリビュートコンサートを収録したDVD(『Put Your Hands Up!』)では、ものすごく小粋にステップを踏みながらギターを弾く彼の姿を見ることができる。ペケペケのテキサス・スタイルのソロもチラッと聴ける。すっごくイナタくてカッコよくて涙出そう。「あ〜 ! あんな爺さんになりたい !」 …って私は女なので、その望みだけは生涯絶対にかなわないけど、「世の中の男性の皆さん、あんな爺さんになってください !! 」っていう感じです。
 このDVDは2枚組みでゲストも有名どころがズラリ。リージョン・フリー盤を手に入れるのにちょっと苦労したが、同じ内容のCDの方は入手しやすいかも。1枚目はゲストのEU、Back Yard、911のステージが納められていて、どれも演奏も歌も良くてなにしろゴージャス、カッコいいのだが、やはり私にはリズムが硬くて後半ちょっと疲れる。2枚目がチャック・ブラウンのバンド+ゲスト(トラブル・ファンクのトニーとベニーなど)の演奏で、例によってノンストップで延々と演奏し(全盛期よりメドレーの切れる回数は多いが)、最後の方には参加ミュージシャンが総出で「ゴッド・ファーザー、お誕生日おめでとう ! 」と叫んで大団円となる仕組み。が、会場の若いお客は2枚目チャックのゆるいファンクより1枚目やゲストの派手なパフォーマンスの時の方が盛りあがっていてちょっと寂しい。ま、チャック爺さん、ちょっと田舎くさくて1枚目の若いバンドに比べたらちょっと地味だけどさ。その底にある“ひなびた”味わいがわかんなきゃ。(ただ、1つだけこのチャックのバンドのホーンセクションのしまらなさにはちょっと不満だけど。リズムはゆるゆる、ホーンはパキッ、という全盛期のバランスを聴きたかったけどね。) それにしても、この2枚組は最近のものとしては絶対に“買い”でしょっ。
 また、最近、中古盤屋では『Any Other Way To Go?』をちょくちょく見かける(…安い…。しくしく。)。チャック・ファンの私としてはこれらを見つけては回収して、機会あるごとに人にプレゼントし、世の中の皆さんに彼のGo-Go musicの素晴らしさを広める所存である。さぁ、みんな踊れ !  (2005.1.29)

 *好きなアルバム* 『Bustin' Loose』, 『Any Other Way To Go?』, 『Go Go Swing Live 』, 『Put Your hands Up! 』
 ※その他のアルバムについては、『愛聴盤』コーナーをご覧下さい。

追記(2007.1.30):
 ※幻と言われていた(Chuck Brown & )The Soul SearchersのSessexでの1st アルバム『WE THE PEOPLE (1972)』、2nd アルバム『SALT OF THE EARTH (1974)』がCD化 ! 詳しくは、「音楽日記」 22.The Soul Searchersの出発点 ! をご覧下さい。

追記(2007.5.31):
 ※あのChuck Brownが、70歳を過ぎてなお健在!Hip HopプロデューサーCarl "Chucky" Thompsonと組んで何とスタジオ録音の新譜を2007.4.24リリース。詳しくは、 「音楽日記」 25.WE'RE ABOUT THE BUSINESS / Chuck Brown (2007) をご覧下さい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その他
 Chuck Brown

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6. 私の好きな音楽 (5) 
● デニス・ラサール Denise LaSalle ●
 学生時代にソウルを聴き始めた頃、先輩から初めてジャケ買いの極意を伝授された時の見本は、忘れもしない、デニス・ラサールのLPだった。『ソウルシンガーでホントに歌える人を見破るにはな、いいか、こ〜んな顔してるのに、ドーンと顔のアップがジャケットに写ってるヤツを選べばいいんだ。そういうヤツは間違いなく歌えるぜ ! (…ゴメン、デニス姐 ! 私が言ったんじゃないからね !!!!)』『…はぁ。』 Westboudの2枚目On The Looseだった。今になって思えば、このジャケットは確かに顔のどアップではあるものの、彼女のアルバム・ジャケの中では一番カワイイものなのに。音楽の話に入る前にいきなり脱線して申し訳ないけれど、実際、デニス・ラサールのアルバムのジャケットはかなりスゴイ。どれもこれも、何だか場末な匂いがする。どのレーベルに移ってもジャケットのこのドロリとした濃さは同じ。しかも、ABCの時のSECOND BREATH (76)の裏ジャケとMalacoのRIGHT PLACE RIGHT TIME (84)は同じ(シリーズの)写真じゃぁありませんか。Malacoのアルバムを見つけた時、もう持ってるものと勘違いして、買うのが遅れたくらいです。ちなみにMalacoの5枚目IT'S LYING TIME AGAIN(87)では、いきなりジャケットが誰ともしれないほっそりとした黒人女性のマンガになっていて、『わ。デニス姐、ついに諦めたか…』と思ったけど、翌年のHITTIN' WHERE IT HURTS (88)では、また元に戻っていた。一体誰がジャケットデザインを決定してるんでしょうか。

 さて、ゆったりした南部のソウルを味わいたければ、デニス・ラサールである。彼女は、何と言ってもTrapped By A Thing Called Loveに代表されるミディアム・テンポの独特のグルーヴ感が持ち味。UNWRAPPED (79) のライブ録音での、Make Me Yours〜 Precious, Precious 〜Trapped のメドレーでも見せたように、このグルーヴ一発で全ての歌を歌ってきたような人である。このテイクでのホーン・セクションのパプパ・ウパプ・パプパ・ウパプ・パーパッ・パッ・パッパーという素晴らしいリフをはさみながらゆったりとステージを作っていく感じはまさに彼女の真骨頂だと思う。
 南部のミシシッピ出身だが、デビューはシカゴ。chess, parka(crajon) で2枚ずつシングル(2枚のchessコンピ・アルバムで聴ける)を出した後、Westbound(3枚), ABC(3枚), MCA(3枚), Malaco(10枚), Angel(1枚), Ordena(2枚), ecko(3枚)でアルバムを出している。ちなみに私はMalacoを出て以降の動向を、不覚にも先日まで全く知らず未聴。
 どのアルバムも水準が高いと思うけれど、やはりWestbound時代は外せない。当時は、chessなどのシカゴ・サウンドのアーティストたちがこぞって録音を南部のマスル・ショールズなどで行うなど、メンフィス・サウンドとの融合が盛んだったらしいが、1枚目のTRAPPED BY A THING CALLED LOVE (72)で彼女が選んだのはHi サウンド。『これまで沢山曲を書いてきたけれど、それらは、ピッタリの音楽に出会うまでは、コトバの束にすぎなかった。私が持ち込んだ“単なる歌詞とメロディー・ライン”に生命を吹き込んでくれたのはパパ・ウィリー』、とHiの名プロデューサー、ウィリー・ミッチェル(同じくアレンジャーで2枚目も手がけるGene "Bo-Legs" Millerにも)に謝辞を捧げているだけあって、バックのサウンドを含めて1枚目は本当に素晴らしい。全てがウィリー・ミッチェルのヘッド・アレンジによるらしいが、いつものHiのスタジオ・ミュージシャンの意気もぴったり。大ヒット作となった。2枚目、3枚目ではあまりヒット曲が出なかったらしいが、私としてはHERE I AM AGAIN (75)のMy Brand On Youなどが大好きである。ABC録音の曲では、Freedom To Express Yourself, I Get What I Want (明るい感じがまた良し) [SECOND BREATH (76)], The Bitch Is Bad(ディスコ・ナンバーだけどあなどることなかれ。チープではありません。), Love Me Right, Fool Me Good(…どうみてもアノ名曲のパクリ ! )[THE BITCH IS BAD (77)]、MCA録音では、先に挙げたライブ録音Trapped メドレー[UNWRAPPED (79)]。そしてMalacoの安定期に入る。
 Malacoサウンドというのは独特の軽さを持っている。正直に言って、Malacoに移籍後のデニスのアルバムを初めて聴いたときには、あまりのサウンドの軽さに一瞬、拒否反応が起こった。でも、その後、アルバムを聴いていくと、結局なるほど、彼女には居心地が良かったのかも、というゆったりとした横揺れの収まり具合を感じる。ほぼ1年に1枚という多作であるが、Malacoサウンドが画一的であることとともに、彼女の曲の約8割が自作であることも手伝ってか、よく言えば安定している、悪く言えば、ちょっと金太郎飴、という印象はぬぐえない。(ちょっと変わっているところでは、New OrleansのザディコMy Toot Tootのマキシ・シングルかな。あれは突発的なヒットになりましたね)。ということで、私はMalaco時代に入ってからは特に名曲をカバーしたものを楽しみにしていた。彼女のカバー・テイクは、デビューアルバムのIf You Should Loose Me (=バーバラ・リンのYou Lose A Good Thing)は別として、Malaco時代に限らずどれもかなり原曲に忠実なサウンド・アレンジで仕上げているのに、彼女の歌としか思えないものに仕上がっているのがすごい。Lean On Me, Hold What You've Got, Bring It On Home To Me, Love & Happiness, などなど…。あ。今、気付きましたが全部男性歌手の曲ばかりですね。なるほど。あまりキンキンと声を張り上げずに、ゆったり歌えるっていう曲を自然と選んでいるのでしょうか。ロッド・スチュアートのDa Ya Think I'm Sexy? は何故 !? 、と思ったけど、まぁ、貫禄か。 (2005.2.20)

 *好きなアルバム* 『Trapped By A Thing Called Love』, 『The Bitch Is Bad 』, 『Still Trapped』
 ※その他のアルバムについては、『愛聴盤』コーナーをご覧下さい。

 

 

 

 

 

 

 

 

その他
 Denise LaSalle

*** Denise LaSalle Japan Tour 2004 *** 
  さて、これを読んでいる方の中にも行かれた方が多いと思いますが、昨年末、デニス・ラサールさんが来日されました。東京公演は舞浜のクラブ・イクスピアリで12月18〜20日の3日間、翌21日は京都磔磔という日程。当然私としては全部追いかけたいところでしたが、残念ながら東京公演の2日目のみ参加。前回の来日は残念ながら見ていないので、初めての生デニスさん鑑賞です。
 慣れないこぎれいな場所でドキドキしながら待っているとバンドメンバーに続いて、スィッ、スイッ、とコーラスのお姉さんが2人登場。 ちょっとぽっちゃりオバサン系と黒髪の細いスラッとした若い人。その2人が、 オープニング・アクトとしてそれぞれ1曲ずつ歌った後、定位置に下がると、バンドがTrapped〜、Love Me Rightなど、有名曲の有名部分をつなげたインストメドレーを演奏し始め、お〜っ、いよいよデニスさん登場 !
 『あ。…年取ってる… ! 』 (LEO、ショックでしばらく絶句。)
当たり前です。冷静に考えれば、そんな年になってる筈なんです。でも、彼女の場合、ジャケットを見る限り、いつでもオバサンで、永遠に年をと らずにオバサンだと、勝手に思いこんでいたのでした。しかも杖をついて、マネージャさん(もしくは家族 ? )にサポートされながら、ちょっとヨロヨロ足元が危なげ。でも、いでたちの方は、ゆったりしたジョーゼット系のふわりとした白いパンツスーツに頭はプラチナ・ブロンドのショートのwig ! アルバム・ジャケットのイメージとは大違い、品のいい大奥様、という感じです。
 で、歌い始めて、びっくり ! 声が落ちてない、どころか、以前より喉が強くなってるような気さえしました。彼女の声はグルーヴ同様、柔らかい系統の人だと思うんですが、今回はかなり硬質に張る声も。もう歌いだしたらバリバリです。全然お婆さんじゃありません。(ちなみに、ヨレ ヨレしてたのは、出て来た時だけで、歌い終わって帰る時はむしろ元気になってスタスタ歩いてました)。1st ステージでは水のペットボトルを手放さず、ちょっと高音がひっかかる場面もありましたが、休憩はさんで2nd ステージ(もちろん、コーラスのお姉さんとも、きちんと衣装替えがあって)では、喉が十分に暖まったのか、もう問題なし。
 演奏曲はブルースが多く、確実に覚えてる所では、 Trapped〜, Now Run & Tell That, If You Should Loose Me, Hung up, Strung out, My Toot Toot, I'm Still the Queen, Don't Mess With My Man, Lady In The Street, Sweet Home Chicago, Blues Is Alright、…え〜と。あと何だったかなぁ。メモしときゃよかったけど、私もそれどころじゃなかったものですから。
 I'm Still the Queenでは、『私はずっとBlues'n SoulのNo.1 Ladyと言われてきたけど、最近、若い女性歌手でBlues'n Soulのqueenと名乗る人が出てきたの。それで、私はこの曲を書いたのよ。I'm Still The Queen ! 』みたい話をかなり滔々と喋ってました。さすが大姐御の貫禄たっぷり。
 MCが多く、『英語のわからない人もいるみたいだけど、分かんない人は、周りにいる英語の分かる人に聞いてね !』と、お構いなしにズバズバ。現地でお客さんとたわむれながらshowをしてるんだな、 という感じがわかって、それなら、もっと小さくてキタナイ小屋で見たかった ! と贅沢な愚痴をもらす私でありました。
 終盤のMCで、『このshowが終わったら、私はロビーに出て行くから、サインでもキスでもハグでも、あなたたちの望むことは何でもしてあげるっ ! (客席、どよめく)』とおっしゃったとおり、終演後はロビーでズラリとならぶファンに1人ずつサインしてくれました。50〜60代のオジサマたちまでもが、子供のようにニコニコ、ウキウキとおとなしく一列に並んでる様子が笑えました。皆、デニスさんが好きなんだなぁ。すごく温かいお人柄。私もこういう婆さんになりたい !  (2005.2.20)

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